一.

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 さて、検死の結果、死体の体内からは毒薬とアルコホルが検出されたのであるが、台所から酒壜と、酒と毒の付着した湯呑み、更に、粉の毒薬を包んでいたらしき薬包紙が見付かった。錠太郎の指紋しか付いていないそれらが。  裏庭や家の中には、それ以外に不審な点は特に。強いて言えば、家の中に、姿見やら手鏡のやたらに多いことが目につくくらい。が、それはただ個人の趣味、嗜好において、蒐集していたと考えられ、事件への関連性はなさそうである。 そして錠太郎の身辺には隣人その他との諍い(イサカイ)等の匂いはなかった。  それらのことから、警察は早々に事件を自殺と断定、捜査を打ち切ったのだが、お染婆さんが異を唱えた。 「せんせは自殺なぞするようなお方ぢゃあらしません(ありはしません)。うちがよう存じ上げとります。せんせは、うちを一人遺して、死んでまうような悪いお人ぢゃあ……」
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