80人が本棚に入れています
本棚に追加
お染曰く、暮崎には最近身持ちの悪そうな女が一人付きまとっていて、そいつが彼を殺したのだという。
「うち、見たんですわ。秋の頃でしたわ、せんせのおうちに女が入っていくのを一度。真夜中でしたけど、せんせのおうちの前の街灯のおかげではっきり見えましたわ。せんせを見間違えたとかそんなやありまへん。うちは割に夜目の効く方ですんで。あれは女です。鈍い銀の錺簪差して、黒地に大胆に赤い花……椿やろか、それがぼぉんと載ったような派手な着物ですわ、そんなんを、衣紋を長すぎに抜いてぐさりと着て、だらしなく帯を結んだ女です。後ろ姿しか見とりまへんが、下品な化粧した、下品な女に違いありまへん。その女がせんせを騙くらかして(騙して)、おうちに入り込んでせんせを殺したんです、うちのせんせを……せんせは真面目で純粋なお人やったから……」
しかし警察も近所も、婆さんの妄想だろう、と断定した。
そして、話をとりあって貰えなかったお染は、探偵事務所に話を持ち込んだ。美篶で割合評判の高い、瀬田与一(セタヨイチ)なる探偵の元に――
最初のコメントを投稿しよう!