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「お兄ちゃん、ハンカチ持った?忘れ物ない?」
朝から、妹の美雪(みゆき)に何度も同じ様な事を言われている。今日は志音が大学へ初登校する日だ。仰々しく、家族全員で玄関から見送る。
「大丈夫!朝カツ丼食べたから、平気だよね!」
弟の正(しょう)吾(ご)は、なんだか的外れな事を言っている。
「忘れ物はないよ。心配無いって。」
鉄舟「オホン!!良く聞けよ、志音。そもそも人生というのは、後戻り出来ず、取り返しが付かん。昨日紅顔の美少年も、明日には醜い老人よ。未来というのは、あっという間に来て、どうなるか分からん。故に日々、只今、只今、の精神で。志を立て、進歩向上、発展して行くのが肝要である。さればこそ、お前の大学生活において・・・」
またいつもの、長いお説教が始まった。
立花家の面々は、もう何度となく聞かされた話に、ウンザリした風だ。気を利かせて、美雪が話しを逸らす。
「あっ、もうそろそろ行かないと、遅刻しちゃうよ!」
「うん、そうだね。じいちゃんは今日、病院の検診の日でしょ?サボッちゃ駄目だよ。」
「わかっとるわい!余計なお世話じゃ!お前さんは、自分の心配をせい!」
賑やかな朝を迎え。志音は足取り軽く、学校へと向かった・・・が、途中で引き返して来る。
「ごめん、財布忘れた。」
「ほら~っ、だから言ったのに。」
彼が登校する大学は、英雄(えいゆう)学園といって、その名の通り、数多くのヒーローを輩出した学び舎である。通称、ヒーロー学園。
世界は一見、平穏を保っているが。宇宙全体で考えて見れば、依然として戦乱が絶えない。
時代のニーズに即応して、ヒーロー制度が導入され、長い年月を経ても、今もってその存在は重宝されている。
だがヒーローになるのは、そう簡単では無い。いかに優秀な人材であっても、変身出来なければ、ヒーローとは認められないからだ。
しかし、ヒーロー学科のある大学で必須科目を履修すれば、もしなれなかったとしても、業界全体が数兆円を超える、巨大産業となっているため。関連業態への就職に有利なのだ。
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