ヒーロー学園

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 見事、在学中にヒーローライセンスを修得した者は、軍や世界統一政府の官僚。あるいは、一流企業に優遇され、衆人の羨望の的ともなる。    昔は純粋にヒーローになりたいという者がほとんどだったが、付加価値が生まれた昨今では、随分と様子が変わって来た。    アイドル気取りの者もいれば、賞金稼ぎの者までさまざまだ。    しかし、志音にとって重要なのは、そんな事ではない。いかに経費を節約して、貯金を残すか?毎日の献立をどうするか?家族の面倒をどう見るのか?である。  正直大学へは、奨学生になれたから入学したのだった。本人は高校を出てから、就職するつもりだったが、鉄舟がそれを許さなかったのだ。  曰く、貧しくとも、普通の人と同じ環境で育つのが、重要との事だ。  幼き頃に、彼に拾われて立花家に来てからというもの、最後は頭が上がらない。  今日のキャンパス内は、新入生の初登校という事もあり、サークルの勧誘等で、ごった返していた。    何故か屋台や、出店まで出ていて、地域住民の姿も見られる。  元来、たこ焼き(粉もの系)には目がない、彼であるが。一日3百円主義を守るため、一路、教室へと向かった。  それにしても広い、まるで迷路だ。さっきから、同じ所を行ったり来たりしている。  緑が映える、美しく白き建築群は、思いがけず第一の関門として、新入生の前に立ちはだかった。   「う~~~ん・・・迷った。」  門の所に地図があったが、まあ、なんとかなるだろう。という、楽天的思考から、場当たり的に進んではみたものの、案の定行き詰ってしまった。 人に聞こうにも、誰もいない。 余裕があった時間も、ジリジリと無くなってくる。 「やばい、最初の授業で遅刻なんて最悪だ。カツ丼食べたのに。」  カツ丼を食べれば、方向感覚が研ぎ澄まされる訳ではないが、想定外の事態に頭が混乱している。 「これは一度戻った方がいいな。古人曰く、{汝(なんじ)、遠からずして元(もと)へ返れ}と言うしね。」  志音が戻り始めると、一人の人影があった。   「すいません、ヒーロー科の教室へは、どう行ったらいいんでしょうか?」  髪こそ白いが、ヒーローセンターの所長と同じ顔をしている、この紳士は。紛れもなく、この学園の学園長だ。
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