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意識が混濁していく。
死ぬのだろうか。
それでも構わない、そう思った。
俺は構わない。自分の生に執着するつもりなど、ないのだ。ただ、そう──大切な人が生きていてくれたら、それでいい。
綺麗事と嘲笑されようと、この気持ちだけは変わらなかった。
轟音。周りから聞こえる悲鳴、祈りの声、そして歓声──。
知らずに自虐の笑みが浮かぶ。
望んでこんな力を持って生まれてきたわけじゃない。こんな力なんてなければ、もしかしたら人並みに平穏に暮らしていられたかもしれない。
幾度となくそう思い、この力を憎んだことも多かった。
大切な人を護りたかった。
そのために身につけたいと願った力が、結果的に大切な人を傷つけるとわかった時の彼の気持ちが、貴方に理解出来るだろうか?
そう、彼はまだ若かった。
これからもっと笑い、泣き、恋をし、暖かな家庭を築くはずの若者だった。
しかし彼が生まれ持った力は、その平凡だけど幸せな将来を過ごす時間を、彼から奪い去ってしまうようだった。
世界の平和と、引き換えに。
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