第1話

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 先ほど神主のような人物は、ずいぶんと古びた本を読んでいた。  私は外の様子をうかがったり、時計を見つめたりしては、また先ほどの壁に貼られている記事を眺めていた。  どれくらいの時が過ぎただろうか。外には静寂が戻り、晴れたことを知らしめすように、鳥のさえずりが辺りに響いていた。私はそろそろ戻るときか、と感じた。しかし、煮えきらずにいたのは、やはり縁結びのことが気になったからであった。  私は決心して立ち上がり、神主に語りかけた。 「今、僕が祈願しても、縁結びの効果はあるでしょうか」と。これは切実な願いだった。 「ええ。今恋人がおるならばそれを良縁になるでしょうし、恋人がいないのならば、いい出逢いができるでしょう」 「そしたら、……一つ御守りをください」 「ええ、どうぞ」    神主の前にはいく種類かの御守りがあった。私はその中から一つ選び、指定された金額を払った。そして休息させてもらったことにたいして感謝し、最後に祈願して、原付のところにもどっていった。  それからの帰り道は、すでに雨もやんでおり、順調に帰宅することができた。    数ヶ月が何事もなく過ぎ去っていった。はじめの内は、祈願の効果がいつあらわれるだろうかと楽しみにしていたが、普段と変わらぬ日々を過ごすのみで、すでに祈願したことも忘れてしまっていた。    そうして祈願のことが意識から消えていたある日、私は一人の女性と出会った。
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