第1話

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 私は驚いた。取り出した傘が、今日お店に返しにきた傘と同一のものであったのだ。 「同じ傘?」と訊くと、悠は少し頬を赤らめて、 「はい。あの傘、気に入ったんです! だから、同じの買っちゃいました」と笑った。 「別に貰ってもよかったんだよ」  と、私が笑うと、彼女は顔を俯けた。 後日知ったことだが、実はお店に返した傘が新品の方だった。  おもてを上げた悠は、私の方に視線を注いでいた。  彼女の黒目がちで穏やかな光を放つ瞳に見つめられれば、私のほうがそこから視線を離せなくなるだろう、と思ったため、窓の方へ視線をむけた。  窓外に向けた視線が、悠の瞳を避けたのではなく、雨の中を歩くことになる彼女を心配しているためだと思われるように、「風邪を引かないようにね」と私は付け加えた。
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