第1話

17/26
前へ
/26ページ
次へ
 店をでたあと悠は、軽くお辞儀をした。そして、私の方に再び視線をむけることなく、店から遠くなっていった。  もう一度、悠の瞳を見つめたかった。しかし、最後に見せた悠の素振りは、自分が悠から視線をそらした行為と同じだった。  私の不器用で、シャイと呼ぶにはあまりにも傲岸な性格には、もっともな仕打ちだったかも知れない。    傘は返した悠には、もうここに寄る義理はない。そこにきて、私の冷淡な仕草が、悠の内にあった些細な好意すら粉砕したのだろう。  しとしとと降る雨を見つめていると、私もそれに同調して落涙しそうだった。  偶然、常連の客が店の前に来て、 「なんだい、こんな時に外見て。ええ。照る照る坊主かよ」  と、笑った。  そのまま、その人と私は店の奥に進んだ。    
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加