第1話

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 グラスの中にバースプーンを浮かせた状態で入れ、スプーンの背を伝わせてミントのリキュールを慎重に注いだ。2つ目の層が、混じり合うことなく無事にできた。 「すごい!」  と言う、悠の声はよく響いた。  彼女は、なるべく近くで完成する場面を見るため、バーカウンターの上で重ね合わせた手のひらに頬を載せて、グラスを見つめていた。そのため、彼女の発声はすぐバーカウンターにぶつかり、店内に拡散していった。  次にパルフェ・タムールという青紫のリキュールを、注いだ。 「あ……」  と、悠が言うと同時に、目前のグラスの中で、青紫と緑が気色悪く混合していった。 「やっぱ、作れないんだ」  悠は笑った。私を非難するというよりも、こうしたミスも寛大に受け止めてくれるような口調だった。  しかし私は、 「今日は、調子が悪いんだよ」と、否定した。  その口調はいささか傲岸だったかも知れない。    
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