第1話

22/26
前へ
/26ページ
次へ
「強がりなんだね」  やはり悠は笑っていた。そして続けた。 「でも、心配しないで、バーテンダーさんがちゃんと作れるようになるまで待つから」  どういう意味、と私は訊ねた。 「もう、言葉のまんまじゃん」  今度は呆れたように言った。 「ともかく、今日は調子が悪いようだ。違うカクテルにしよう」  と、私は平然として、本当は作れないことを隠した。だいたい、数年に一度、注文する変人が出るかどうかのカクテルなのだ。それに、悠が見つめていたのも問題だ、と私は自分の心を慰めた。 「どうする、ゴディバミルク?」  と、訊くと悠は頷いた。  私は失敗して傷ついたプライドを癒やすため、普段はバースプーンでかき混ぜるだけのカクテルを、シェイクして作った。 「いつもと作り方ちがうけど?」 「シェイクすれば、中に空気が入って、まろやかになるんだよ。まあ、どっちがいいかはわからないけどね」  
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加