第1話

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 キャップを外したシェイカーを逆さにすると、勢いよくココア色の液体が滴り落ち、いくつもの気泡を浮かべてロックグラスを満たしていく。  腕先を微細に振動させ、シェイカーの中にある液体をあますことなく注入した。  悠の前にグラスを置くとき、浮かんでいた氷の破片が照明を受け、切なげに光を反射させていた。 「うーん、違いがわかんない」  と、悠は困惑した表情を浮かべながら、コースターの上にグラスを戻した。 「はじめはそんなものだよ。カクテル飲むようになって、日が浅いじゃん。だから、比較する対象が少ないからね。俺だって」  私は一旦、斜め後方のウイスキーが並ぶボトル棚へと視線をむけて、 「ウイスキーはこれほどにも銘柄があるんだが、はじめは個々の味覚の違いがわからなかったからね。多少なりとも比較できるようになったのは、自分の好みの味を追求していった結果なんだ」と、説明した。  説明の最中、私の頭は不意に浮かんだ思念により、かき乱されていたーー    
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