第1話

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 彼女を、彼女といたときの至福を、取り戻したかった。もはや遅いと知りつつも。    煩悶し、その憂愁を紛らわすために、なんら効果を望めないであろう努力に励んでいた。  たとえば再会を期して街を徘徊したこともあった。彼女との記憶が鮮明のこされた街にいけば――、あるいは彼女も同じ心境となり、たたずんでいるのではないか、と期待していた。  無論、すれ違う人々に視線を送れども、懐かしく愛しい顔立ちを見つけることはできず、ただ、これまでもこれからも、関わらないであろう他人がいるのみだった。      悲しみから逃れるように、または救いを求めるように、別れた彼女と頻繁に訪れた、ある場所にむかった。
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