第1話

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    数日後にバイクにまたがり見知らぬ土地へとむかう。失った彼女を欲してやむことなき衝動を、緩和させたかった。 アクセルを全開にし、凄まじい速度で景色を追い越していく。  叫喚するような風の音が耳朶をかすっていった。速度とともに高揚感は上昇していく。グリップに感情の全てを託しつつ、来る景色に感動を、去りゆく風景に哀愁を感じていた。    鬱蒼とした木々に囲まれ、勾配の急な坂を駆け上がり、山の頂から海を眺める。そこにあった風光明媚な眺望は、じめついた感情を払拭してくれるような爽快さがあった。    彼女はいない。しかし、それもいいかもしれない、と密かに思ったのであった。    別れることによって、垣間見ることが叶ったこの景色は、様々な感慨を与えてくれた。    愛しい人なき世界でありながら、未だ美しさは滅んでいないことを知った。
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