第1話

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 空一面、重厚な雨雲に覆われかけていたのである。  バイクの座席の下からレインコートを取り出しては、慌てつつ身につけて、焦りながらエンジンをふかし山を降っていく。山を降りきるよりも先に、雨は本降りになっていた。  快活になりかけていた私の気持ちは、灰色の曇天に染められたように陰鬱になっていた。  時間と共に雨は激しさを増していった。途中、何度も私の胸によぎったのは、どこかのお店によって休憩したい、との思いであったが、自分がずぶ濡れであることを考慮すると、それよりも先に帰宅するほうが大事だと思われた。  アクセルは全開であった。  そのため、ゴーグルのない顔面に、勢いよく雨は当たってきて、時折片目で運転しければいけなほどであった。
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