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「それで急いでバイト探したんだけど、現金で貰える所なんてそうそう無くてさ。収入食料0のまま此処まできて、バイト探すために外出たら暑さも加わってクラッと」
断言しよう、コイツは馬鹿だ。
俺の隣人がこんなに生活力皆無で野垂れ死にしそうな人間だったとは。
そもそも苦笑しながら話す内容ではない。
俺が絶句していていると、ウィルはそこで突然向こう側から素早く腕を伸ばし俺の手を握った。
不意を突かれ慌てて手を引っ込めようと試みたが、結構強く握られていて逃げることが出来ない。
女だったらコロッと落ちそうな容姿の奴に間近で見詰められればそりゃ逃げたくもなる。
「え、えっと、何?」
近くで見たトルマリンの瞳は想像していたより遥かに澄んだ色でその綺麗さに少したじろいだ。
「そこでさ、俺達でお互いに有益な関係を築くのはどうかな?ね?いい案があるんだ」
「へ?」
いきなり何を言い出すんだ。
有益な関係?
「こんなのはどうだ?今日から俺の飯を君が作る、俺は君に英語を教える。Give&Takeだ、Okay?」
「ごめんちょっと意味分かんない」
俺に英語を教える?
今一番触れてほしくない傷に塩塗りたいのか?
何を言い出すんだコイツは。
俺に瞬殺されることを予想していなかったのか、手を握ったまま固まってしまった。
そらこんな意味分からない提案されたら誰だってまずぶった切るわ。
「え………じゃ、じゃあ俺も何かご飯作るからそれを交換するとかどうだ!?」
「いや、結構ですそういうのは」
2度目の拒否に、数回あわあわ口を動かした後ついにまた青い目がじわりと濡れ始めた。
あ、この流れはマズい気が。
俺の手を握る力は弱まるどころか強さを増し、指先が白みを帯びていた。
「でも、君だって、一応俺の隣人なんだし!す、少しくらい仲良くしようとか、協力しよう、とか考えてくれてもいいだろ……!」
「あ、うん。それはそうなんだけどな───」
英語も料理も必要ないぞと言いかけた所で、言葉を挟まれる。
「俺はずっと篠之芽さんと仲良くなりたかったのに!」
────────ん?
きっかり3秒俺達の動きが止まった。
「あああああああ!ほらその、俺、本当は日本に独りなのが寂しくて、大学も何回か行ったけど皆俺が外人だから少し距離置くし!生活だってギリギリで滅茶苦茶不安で、だからっ───仲良くできる人がほしいんだよ……」
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