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「嗚呼、やっぱり味噌汁の具は豆腐だよなぁ」
「まだ日本に来て1ヶ月の奴が何言ってやがる」
「1回言ってみたかっただけだよ」
テーブルの向かいに座る相手に目をやる。
金髪碧眼に白皙の美貌、そんな男が笑顔でスプーンを使い味噌汁を飲む姿はかなり異様だ。
美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。
しかし如何せんこのミスマッチ具合である。
俺は朝食用に焼いた塩じゃけを箸でほぐしつつ、ウィルの姿に苦笑した。
つい最近、俺はイギリス人を拾った。
具体的に言えば昨日だ。
偶々拾った外国人が、偶々お隣さんで同じ大学で、偶々生活ピンチだったので成り行きでこれからご飯を作ることになった。
今は一緒に朝飯を食べている、俺のバイト時間に間に合うように。
今日、朝起きて最初に思ったことは夢オチか否かだった。
可能性はなきにしもあらずとベッドを出た訳なんだが、その可能性はすぐに打ち砕かれる。
インターホンに呼び出され、玄関を開けた先にはウィルが待ち構えたようにして立っていた。
そして現在に至る。
正直、昨日の昼の食べっぷりを見ただけに毎日あんだけ食べたらどうしようかと少し不安だったが、量に関しては並一通りだった。
昨日のアレは死ぬほど腹が減っていたせいとのこと。
現に夕飯に出した牛丼は、誇張してもデカ盛りくらいの量しか食べなかった。
ひとまずそこには安心────でも、だ。
「……ウィル、これから俺はお前の飯を作るわけだが」
「うん」
「どこで付けた知識なのかは置いといて、とりあえず突然飛騨牛みたいなのを要求するのは止めてくれ」
箸の使い方に悪戦苦闘し、結局フォークを握り塩じゃけにかぶりついたウィルは不思議そうに首を傾げた。
「飛騨牛みたいなの、ってどういうこと?」
「ざっくり言うなら高いもん要求すんな」
此処が一番心配だ。
まだ1日しか話していないにも関わらず、言葉の節々から生活力のなさが見て取れた。
他人の生活に干渉するのは余り好きじゃないがこの場合は別問題。
「俺が生活の一角を担うことになった以上、家計破綻するような食事は提供しないぞ?」
「そのへんは春馬に任せるよ」
あれ、意外とあっさりしてる。
一応自覚はあるみたいだし、だからかな。
しかしどんだけ湯水の如く金を使ったんだコイツは、というか元々所持金はどれくらいあったんだ。
そこでふと、箸を止める。
コイツの飯を作るのは構わないが、それにしてもお互い何も知らなさすぎる。
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