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効果音が付きそうなほどポカンとしているウィルを見て、もう一つ重要なことを思い出した。
「あ、そうそう連絡先。忘れてたけど俺達まだお互いの連絡先知らないよな?メアドとケー番交換しとかね?」
「えっ!?」
え、どうしてそんなに驚くんだ?
俺何か変なこと、もしかしてお節介がすぎたのか?
ウィルの動揺に俺までつられて動揺してしまう。
「──────は、」
「あ、あのウィルさん……」
「春馬あああああああああああ!!」
「うぇ!?」
そっちか!
抱きつき攻撃とか変化球止めろ!
微妙にまたデジャヴを覚えながらも俺は思いっ切り抱き締め、否拘束してくるウィルから逃れようと身体を捻る。
しかし体格差と体力差にすぐ音を上げる羽目になった。
「ウィ、ル離せ!苦しいんだよ!」
「春馬がっ……春馬が俺に連絡先教えてくれるなんて!ジーザスここが天国か!エデンはここにあった!」
「よ、喜んでんのは分かったから、離……!」
窒息しそうなレベルの力でぎゅうぎゅう圧迫され命の危険を感じた、これは死ぬ。
視界の隅のブロンドがぼやけ出した。
あ、ガチでヤバい。
なけなしの力を振り絞ってウィルの背中を何回も叩きギブアップのサインを送る。
そこでようやく俺が苦しんでいることに気が付いてくれたようで、潔く解放してくれた。
「ごめんごめん!嬉しくってついな」
嬉し涙を拭って笑いかけてくる姿だけなら可愛いもんなんだがねウィルさん。
俺が外国人ハグ恐怖症になったら絶対お前のせいだ。
「そ、そこまで喜んでくれるとは思わなかった……」
「今までの人生の中で一番幸せだと言っても過言じゃない!もういっそ今日を祝日にしたいね、うんそうしよう俺と春馬の記念日だ!ありがとう、それじゃあ交換といこうか!」
「お、おう」
これはいくら何でもオーバーリアクションじゃねぇかという言葉は飲み下して、俺達は一応記念すべき連絡先交換をし終えたのである。
俺がバイト先に着いたのは開店5分前のことだった。
『caida del dia (カイダデルディア)』と書かれた看板の下の札が、まだ準備中を示していて小さく息をつく。
「遅くなってすみません!」
「おっと、ギリギリセーフだったかー。春君の遅刻がみれると思ったのに残念」
「人の不幸を喜ばないで下さい水無月店長……」
人の悪い笑みを浮かべる店長を力無く窘める。
『caida del dia 』ここが俺のバイト先である喫茶店だ。
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