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店内は木造で、年季の入った色艶を出す壁やテーブルをステンドグラスから差し込んだ光が程よく彩っており、カウンターの後ろに並べられたボトルが高級感を演出している。
……まぁ実際ボトルの中身は料理に使うシロップばかりなんだが。
『caida del dia 』は駅から少し路地へ入った処にある、こじんまりとした喫茶店だ。
客の出入りはそこまで多くなく、店も俺と店長の2人で営業出来るレベル。
しかし決して閑古鳥が鳴いている訳ではない。
店長の方針で大々的に宣伝しないだけであって、一度来た客はしっかり捕まえ、その後かなり贔屓してもらえるタイプの店だ。
そんな小洒落た雰囲気を纏うかの如くカウンターに立つ水無月店長は、ニヤニヤしていてもどこか様になっているから腹が立つ。
外見も二十代後半の優男にしか見えないのに実年齢四十代とか本当笑えない。
「……やっぱいつ見ても、店長外見詐欺ですって」
「馬鹿なこといってないでサッサと着替えくれないかなぁ?後2分なんだけど」
店長は時計を指差して面白そうに言った。
自分の腕時計でも一応確認して、油を売っている暇はないことを悟った。
「すみません、すぐ着替えます!」
「はいよーいってらー」
店長に見送られ、俺は休憩室へと走り何とか2分で着替えを終えた。
朝の仕事は基本的厨房の手伝いだ。
本来はホールのバイトなんだが、というか募集要項にはそう書いてあったんだが、混むのが昼間くらいなので今じゃそれ以外の時間は下準備を手伝っている。
それもこれも俺の実家が定食屋で、料理を叩き込まれたことをうっかり言ってしまったせいだ。
「店長ー、ここのラディッシュ切ってもいいすか?」
「頼んだ!あとさ、カルパッチョ用のドレッシング切れてたはずだから作っといてー!」
「了解です」
トントントンと一定のリズムを刻みながらサラダ用のラディッシュをスライスする。
無心でラディッシュや玉ねぎパセリなど必要な野菜を切って、ふと視線を上げると向かいでパスタを準備している店長と目があった。
「………はぁー、春君が正社員だったら良かったのにな」
「そのセリフ何度目だと思ってんすか」
「多すぎて忘れちゃった、テヘ」
いやそんな風に舌出してテヘペロとか似合ってるけど可愛いなんて断じて認めませんから。
頭コツンのポーズも付けんな。
四十路で似合っても正直心境複雑だろ、それ。
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