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「なぁでもさー、店長さんの気持ちにもなってみてよ春君」
「雑用押しつけれるぜヒャッホウ!的な気持ちですか」
「凄い大体あってるよ」
「そこだけ大儀そうに言われてもハイ分かりましたなんて返すバイトは居ません水無月店長」
真顔を装い威張る店長をサッサと切り捨て、ボウルとスプーンを棚から探す。
俺の態度に店長は少し文句を漏らしていたが何度も繰り返した遣り取りなので軽く流す。
店長は諦めて溜め息を吐き出し、そこで思い出したように話題を変えた。
「そういや、今日はどうして遅かったの?通勤中事故った?車相手にグシャッと」
「不吉なこと言わんで下さい」
言葉の割に店長の表情は真面目そのもので仕事モードに切り替わっていた。
ああ、これはちゃんと話さないといけないヤツだ。
「えーと、最近知り合った隣人に朝飯作ってたんです」
「…………は?」
突然動きを止めた店長。
俺がボウルの中のドレッシングをかしゃかしゃ混ぜる音がやけに響いた。
あれ、マズいこと言ったっけ俺。
首を少し捻りつつも手だけはちゃんと動かし続ける。
「は、春君?ただ知り合いなのに、朝ご飯作ったの?」
しまった、そうか友達とでも言えば良かったのか。
──そう考えたことすらマズかったようだ。
俺の顔が僅かに引きつったのを目敏く見ていた店長が恐ろしい形相で睨んできたのだ。
突然の変貌に悲鳴が出そうになるのを必死で堪える。
何で凄むとそんなおっかないんすか店長、ヤバいちょっとリアルに泣きそう。
「え、いや、その、別にただの知り合いってほど知らない奴じゃあ………」
有りませんと言い切れ俺!
しかし店長の威圧感に気圧されて、どうにも上手く口が回らない。
「どのくらい知り合い?でも前まで隣人居ないって言ってたよね?いつ知り合ったの?」
「あ、えと、きの───」
馬っ鹿何言い掛けてんだ俺えええええええ!
「昨日!?春君どういうこと!?たった1日そこらで朝ご飯作らされるなんて、何か脅された!?良くないことに巻き込まれた!?」
「違います違いますから!!変な勘ぐり入れないで下さい!あと店長怖い!」
「春君を心配して言ってるんだ!店長さんは第二の父親なんだよ!」
マジか父親だったなんてそんなの初耳だぜ!
部下思いなのはありがたいけどもう少し子離れしてほしいです切実に。
誤解を正すため俺は仕事の合間に経緯を全て話すことになり、完全ではないにしろ一応店長を納得させることが出来た。
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