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下準備も大方終え、そろそろホールの方に戻っても良いかなと思っている頃、狙ったように軽やかなベルの音が鳴り響いた。
来客だ。
まだ昼前なのに、珍しい。
「いらっしゃいませー!店長、俺出ますね」
「もう少し話したかったんだけど仕方ないか、とりあえず頼んだよ」
まだウィルのことでぐちぐち言ってたのでちょっと逃げる口実みたいな体になったのは否めないが、客は客だ。
俺は素早く手を水洗いして、厨房を後にした。
………にしてもウィルなぁ。
アイツ大丈夫かな、やっぱり今日くらいは休んで、色々話すべきだったかなぁ。
大体店長も過保護すぎなんだ、普段は人からかってヘラヘラしてんのに。
別にそんな近所付き合いがあってもいいじゃないか。
エプロンをきっちり整えカウンターから顔を出す。
「お待たせしてすみません。どうぞ好きな席、に……」
──────え。
「………えっと、朝ぶりだね春馬」
噂をすればなんとやら、店の戸を開け待っていたのは朝別れたはずのウィルだった。
店の雰囲気と相俟ってそこだけ御伽噺に出てくる異国のような錯覚に陥り、思わず見惚れてしまう。
ジーンズに白シャツというシンプルな格好もコイツが着ればモデルみたいになるんだから世の中不公平だ。
「え、あ……いらっしゃいませ」
「ここ座ってもいい?」
「どうぞ………」
ぎこちなくなりながらも、店員として最低限の対応だけはやり切ることが出来た。
優雅に腰掛けて足を組む姿は文句なしの英国紳士だ。
でも俺は、困ったことがあれば来いと言ったはず。
じゃあもう何か問題が発生したんだろうか。
「───ウィル、何か問題あったのか?」
「あー、あのさ……俺昼飯ないんだ」
しまった、昼飯のこと忘れてた。
「悪い!それ考えてなかった、今度から作り置きするから今日は飯買って────………」
ウィルは金がないんだった。
一番大事な部分、てか全ての元凶を忘れてた。
予想外の失態に眉間を押さえる。
つられてウィルまで申し訳なさそうにしょぼんとするから、余計罪悪感にかられた。
「ごめん、色々考えてなくて……」
「俺も忘れてたから、その、俺こそごめん……」
「じゃあ、それならお金少し貸すから───」
「こ、ここで食べちゃ駄目か!?」
へ、『caida del dia 』で?
何故か必死なウィルを見つめ、しばし考える。
ここ何気にお高いって分かってんのかな。
「………それなら、料金ツケるぞ?」
「え!?あ、分かった!」
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