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もしかしてウィルはこうやって余分に金をばら撒いてきたのだろうか。
コイツのルーツが一瞬垣間見えた気がする。
大学の友人でさえ料金に負けて1回しかからかいにこなかったんだからな。
「じゃあ何か頼む?メニューはこれな」
「いや、まだ10時半だし……そうだなぁ、紅茶一杯貰える?アールグレイで」
「分かった」
おお、紅茶とは流石イギリス人。
うわーでもこれ滅茶苦茶緊張する、本場の人に出さなきゃいけないのか。
マズいって言われたらどうしよう。
そうはいってもオーダーはオーダーなのでいつもより力みながら水道水を湯沸かし器に入れて沸騰させる。
その間にガラスのティーポットの方を棚から取り出し、お湯を少し注いで温めおいた。
今更ながら、店長の仕事人魂は凄いと思った。
バイト始めに一体何回店長に紅茶とコーヒーをいれ直しさせられたことか。
マズいだの豆挽きすぎだのジャンピングがなってないだの、鬼嫁の如くしつけられたことは絶対忘れられない。
両親が営んでいる定食屋ではそんな洒落たものを出していなかったため、アパートでも沢山練習を重ね慣れるのに随分時間がかかった。
でもおかげで今、本場の人間に一応ちゃんとした飲み物を出せそうだ。
しっかりリーフがジャンピングしたのを確認して、後は蒸らしに入り一段落する。
緊張したけど一応自分なりに精一杯のものが出せそうだ。
数分して蒸らしを終えカップに注いだ紅茶を、俺はウィルの元へと持っていった。
「お待たせしました、アールグレイになります」
「ああ、ありがと………これ色すっごい綺麗だな」
ウィルが驚きの声をあげたのを聞き、心の中でガッツポーズをする。
よかった、落第点ではない!
普通ならここで下がるのだがなんせこれを飲むのはイギリス人なのだ、反応を見るまで下がれない。
カップを傾ける時にブロンドが揺れて、稲穂のように輝いているように見えた。
「………………うまい」
「マジ!?よ、よかったー!」
呆然と紅茶の波紋を見つめながら出た呟きに、思わず本心を口にしてしまった。
仕方ないさ、だって本場から合格点貰えたんだ!
「本当美味しいよ。美味しい、かなり美味しい。今までの中でトップに入るな。日本の喫茶店は皆このレベルなのか?いやでも確かにこの国の紅茶は美味しい、午後ティーのミルクティーなんて量産のくせにあの美味しさだ。ストレートだけは許せないけどな」
おま、午後ティー飲むんかい。
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