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コイツは何を言っているんだと。
まさかそれだけのためにわざわざ地球の裏側まで留学しにきたんじゃないだろうな。
「まぁそれはただのきっかけだよ。小さい頃放送中止になったアニメの続きは、その後すぐ英国でネットを介して観ちゃったんだ」
苦笑しながらそう言ったが、最後に日本に来てから全巻オリジナルを買ったけどねという言葉を付け足したせいで全然フォローになっていない。
そしてウィルが破産した原因がまた1つ判明した。
漫画のまとめ買いしてんじゃねえよ馬鹿。
「じゃあ何のために?」
「日本語とそれに纏わる文化を知りたいんだ」
「へー……でももう日本語はペラペラだと思うぞ?」
「日常会話全般はね、でもそういうことじゃないんだ。俺はネットでアニメを観た時が初めて日本語での吹き替えを聞いた瞬間だったんだけど、その時本当に日本語を美しいと思ったんだ。それで日本語を理解したくなったんだけど字幕なんかじゃ全然足りなくてね、英語には存在しない概念や言葉が沢山有るんだよ。日本語は日本語でしか理解が出来ない」
穏やかな笑みとともにそう言われて、俺はまじまじとウィルを見た。
対して向こうは優雅に紅茶を飲んでいる。
母国の言語をそこまで深く考えたことなんてなかったからまさに目から鱗だった。
訳せない概念まで、存在しない価値観まで知りたい。
そんなこと考えたこともなかった。
頼りなかった第一印象が少し改められる。
こんな想いを持ってここまで来ていたんだ。
「それに言語は文化の結晶だからね。俺は日本語を紐解いてみたいんだ」
「………お前、すげぇな」
「何がだ?」
聞き返されても困る、俺は適当に言葉を濁しウィルから目を離した。
純粋にすごいと思ったんだ。
これだけ明確な意思を持って生活していることに。
俺なんて受かりやすいって理由だけで経済学部受けたんだ、大学生活はべらぼうに楽しいが学びたい何かがあったのではない。
心の持ち方が全然違ってこっちが後ろめたくなるくらいたいそう立派だ。
なんというか、な。
「───お前かっけぇなぁ、って思ったんだよ」
「ッ、ゲホッ!!」
「何で噎せてんだ!ほら、口拭け!………大丈夫か?」
「ごめん、大丈夫。いや、うん、何でもない」
ハンカチを受け取って口を拭いたウィルは顔を手で覆って項垂れてしまった。
指の隙間から見える肌がほんのり桜色になっている。
まさか照れてんのか?
昨日今日俺に散々リップサービスした奴が?
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