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「待ってくださいお父様!俺、あ、私は決して春馬に迷惑をかけようなどとは思っていません!確かに昨日は迷惑をかけた形にはなりましたが、できれば彼ともっと仲良くなりたいと思っただけでっ!」
「でも実際今日の朝世話になってるじゃん、結局は紐と変わらないね」
「違います!ちゃんとこれからお金も入れるつもりで!私は必ず彼を幸せにしてみせます!で、ですからお父様そのような考えは………」
「いーや、何と言おうと認めないよ、こんなお付き合い」
「そんなっ……!」
そもそも父親じゃねえ。
しかもなんだこの茶番劇、実家へ挨拶に来た勇者彼氏とラスボス頑固親父じゃあるまいし。
店長の肩越しにウィルと目が合って溜め息をつきたくなる、涙を浮かべてどうにか助けてくれとその雄弁な目で訴えてきたからだ。
「………店長、彼一応お客ですから」
おんぼろの助け舟を渡してみる。
「金無いんじゃないの?」
撃沈されました。
しかしせめてもの手向けに真実は教えておこう。
「ウィル、大丈夫。この人はただの上司で父親なんかじゃないから、父親気取りだから。さっきの言葉は気にしないでくれ」
「あ、酷いな春君!店長さんは心配して言ったんだよ!?」
「おーきなお世話です」
「え?へ?」
俺が店長を紹介すると事情が飲み込めたウィルは笑顔になり、逆に店長はふて腐れることとなった。
ツケの話もしてまた店長がキレかけたが、緊張感は既に崩壊していたので問題なかった。
「あー店長本当怖い、マジ怖い」
「俺死ぬかと思った……」
「でもこれだけで済んだならマシな方、一応勝利だ」
「そっか。無敵艦隊も沈むんだな、『caida del dia』だけに」
ウィルのジョークに俺と店長同時に吹き掛けてしまう。
コイツ、なかなかやるな。
店長を懐柔する日も案外近いのかもしれない。
笑わせられた店長は俺がニヤニヤしているのを見るや否やすぐさま表情を引き締めた。
「だからってまだ店長さんは認めないからな!もうすぐ春君と会う時間も減るし……」
「え、何かありましたっけ」
最後の言葉に首を傾げた。
それを見た店長は怒りを通り越して最早呆れたと言わんばかりの顔で俺に視線を突き刺した。
ほ、本当に分かりませんのです店長。
「春君、もうすぐ大学始まるでしょ」
忘れてました。
横にいるウィルに目を向けると、当たり前だろという意味なのかウィンクを決めてくる。
──絶対穏やかに過ごせないな、夏休み明け。
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