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「……ハ、How about a tea?」
頭をフル回転させてなんとかお茶を勧めてみた。
念のためボトルのお茶も見やすい位置まで掲げておく。
緊張と、出来れば英語が通じてほしいという期待で妙にドキドキしながら返事を待った。
男は俺の顔とお茶を緩慢な動きで交互に見やり不思議そうに眉元を寄せている。
通じたのか、通じてないのか。
もう少し話した方がいいのかもしれないと焦った俺は再度口を開きかける。
「──ありがとうございます。少し、お茶ください」
「え!?あ、どうぞ!」
日本語しゃべれたのかよ………!
恥ずかしいやら安心したやらでガックリ項垂れつつ、ボトルのキャップを外して渡した。
近くでごくごくと喉の鳴る音が聞こえる、よほど水分がほしかったらしい。
観光で来たんだろうが、こんな猛暑時期だなんて随分運の悪い人だ。
「───ぷはっ。助かったよ、本当にありがとう」
「あーその、気にしないでくれ……」
ボトルを受け取ってその爽やかな笑顔から目を逸らす。
何か一応大丈夫そうだしアパートへ帰ろうかな帰りたい。
しかし俺の望みとは裏腹に、その外国人さんはまた駐車場に倒れ込んでしまった。
な、やっぱ熱中症で身体動かないのか!?
「ちょ、あんた大丈夫か!?」
「ああー………腹減った、死ぬ」
──────はい?
「暑い、腹減った、金無い、溶ける……Fuckin' Japan」
最後の一言が少々聞き捨てならないが今はそれよりも。
金が無くて、腹減ってる?
「お前、腹……減ってんのか?」
「減ってる。昨日から何も、食べてない」
「はあ!?」
コイツ別の意味で死にかけてんじゃねぇか!
その衝撃の発言に、俺は急いで外国人さんの脇へ腕を差し入れて担ぎ起こした。
うっ、思ったより体重あるなコイツ。
「あ、あの?何を───」
「お前馬鹿だろ!そんな状態で外出たらマジで死ぬわ!とりあえず俺ん家に来い。目の前のアパートだからすぐ休める、飯も作ってやる」
何か言いたそうな外国人さんを無視して、半ば引きずるようにアパートの階段を2人で上がった。
「いいか、お前はそこのベッドで寝てろ。頭にさっきのお茶乗せとけ、俺は今から飯作るから。安心しろ、時間はかからない」
部屋の鍵を開けて転がり込んだ後、間髪容れずに寝室の方へ連れて行きベッドを指差した。
初対面でいきなりベッドを勧めて安心しろは無いかと思ったが、当の本人は状況の進展に着いていけずそんな余裕は無さそうだった。
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