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「あ、ありがとうございます……」
「分かったなら寝ろ」
訳も分からず萎縮しきっている相手にピシャリと言い放ち、食べ物を用意すべく台所に立つ。
───全く、全くだぜ。
死にそうな奴目の前に放って置ける訳ないだろ。
冷蔵庫の中には買い溜めしていたつけ麺の生麺がまだ5袋残っていた。
これだけあれば十分足りるはず、外国人さんが麺類食えるか知らんが腹減ってるならぶっちゃけ何でもいいって。
何かもうキュウリとか生野菜乗せて冷やし中華っぽくすればいいか、それなら一応ビタミン取れるし。
鍋に水をいれ、冷蔵庫から食材を取り出す。
お店の子の名にかけて不味い物にだけはしない。
そうして全ての調理が終わったのは鍋を取り出してから10分後のことだった。
「えーと、飯作ったぞ。頭痛とかはないか?」
「それは大丈夫………これは?」
「つけ麺というか冷やし中華というか、あーあれだ!冷たいヌードルみたいなもんだ!不味くはないから大丈夫!」
見た目が完全に冷やし中華で食べ方はつけ麺という折衷料理に外国人さんはしばらく物珍しそうに眺めていたが、空腹が勝ったのかテーブルに腰掛けると無言でフォークを握った。
「そのヌードルをこのスープに浸してから食べて?」
俺の簡単な説明を聞いて、麺をパスタのようにくるくる巻きつけスープに浸し、恐る恐る一口頬張っていた。
ど、どうなんだろ……口にあったかな。
夏バテ防止のつもりでコチュジャンとか混ぜてちょっとピリ辛にしてあるんだけど、愚策だったか?
俺も釣られて無言のまま反応を伺う。
咀嚼していた外国人さんの口が動かなくなった。
………ヤバい、まずった?
俺的には結構美味しく出来たつもりだったんだけど、外国人さんには合わない味だったかもしれない。
フォークを握った状態で穴が開くほどつけ麺モドキの方を睨んでいらっしゃる。
目を見開いて固まっている姿も絵画の一部みたいに様になっていて羨まし、なんて思っている場合じゃない。
こ、これは一度下げた方がいいんじゃないのか。
不安に駆られて思わず声をかけようとした。
が、次の瞬間凄まじいスピードでつけ麺をかき込み始めた。
呆気にとられる俺を置いてけぼりにして、みるみるうちに麺と野菜の山が崩れ去っていく。
皺のない整った白シャツにタレがたくさん飛んでおり、早く染み抜きしないと取れなくなるぞと心の中の自分がぼんやり注意する。
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