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「君に助けて貰った時、最初は俺が隣人だから心配になって助けてくれたんだと思ってたんだけど──………君の口振りがどうもそうじゃない気がしてきてね」
伏せていた顔を上げて説明を始めたウィリアムさんの目に、どこか悲哀の光が宿っているのは多分俺の見間違いじゃない。
普通に俺が悪いんですけどね、これは、完全に。
頭が混乱してきて無意識のうちにこめかみを押さえる。
「…………その、でも会ったことないですよね俺達」
「大学で2回、アパートで3回、コンビニで1回」
「すいませんでした、本当」
つまり俺は一応知り合いであるはずの相手に英語で話し掛けたりしていた訳だ。
……………。
滅茶苦茶失礼じゃん、累乗効果で恥ずかし!
もう嫌だ穴掘ってそこに落ちたい、この人の前から一旦逃げたい、あああ俺のバカ。
「じゃあ篠之芽さんは何で俺を助けたんだ?」
一方本人はさっきの暗いトーンとは打って変わって、純粋に不思議そうな声色で首をかしげていた。
本当にこの人のテンションの落差には着いていけない。
てか何で俺の名前知って……いや、お隣さんだからか。
「……こんな暑い中倒れてる人見たら普通助けますよ。それに、そのーウィリアムさんを観光客だと思ってたんで………せっかくの旅行嫌な思い出にしてほしくないし、料理くらいなら出来るし、何というか、衝動で」
「───そっか」
理由を改めて問われると余計に分からなくなるもので、衝動的に動いていた感覚を伝えるのは存外難しい。
ウィリアムさんは俺の歯切れの悪い返事に一言返すと、それ以上追及してこなかった。
そういえば、と俺も疑問が浮かぶ。
「あの、ウィリアムさん」
「ん?どうした?あと俺のことはウィルでいいぞ?」
「じゃあウィルさん────」
「ウィル、な」
突然、謎の威圧感を放つ完璧な笑顔を向けられて身体が固まってしまった。
俺何か地雷踏んだ………?
呼び捨てで呼べばいいのかこれは。
「えっと、ウィル、はどうしてあんな所で倒れていたんだ?」
「ああそのことか」
どうやら呼び捨てで正解だったみたいだ。
ニコニコ楽しそうに笑いながら足を組み、俺が出した粗茶を一口飲んだ。
身体の硬直が解けた俺はそっと安堵する。
「いやな、1ヶ月前に日本に来たはいいけど知り合いがいるでもないし俺料理出来ないし日本馬鹿みたいに暑いし、それでずっと外食してたら今月の仕送りがすぐ尽きちゃって」
………やっぱ馬鹿だろコイツ。
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