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夜の森
夜の森を一人で歩く。これは大人にとってもかなり心細く、怖い事だと言える。
ましてや十才の子供なら、その恐怖は計り知れない。
カイは、途方に暮れていた。
進むべき道を見失ってしまったのだ。もう、八時間も森の中を迷っていた。
「日が暮れぬうちに帰って来るんだぞ!」
出掛ける前に祖父から忠告を受けたにもかかわらず、森の奥へと入り過ぎていた。
大きなつぶらな瞳は、三時間も前から潤んでいた。泣かないようにギュッと目を瞑る。
しかし、それは逆効果だった。
頬を伝わって、ポロリと涙が落ちた。
「うぅぅ」
悔しいとは思いつつも、涙を堪える事ができなかった。
暗闇、森の中、空腹。
既に限界点に達していた。
そんな少年に追い打ちをかけるかのように、不気味な声が聞こえて来た。
「誰? 誰?」
蒼白い月の光が、木々の隙間から差し込んでいた。
カイの他には、誰も存在しないように思えた。
カイは、森の中で叫ぶ。
「誰! 誰かいるの!」
答えるものはなかった。
ただ、蒼い静寂が広がっているだけだ。
カイは、先ほどの声は気のせいだと思い始めていた。
確かに、恐怖と不安からくる幻聴としか思えない。
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