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そんなときだ、アインが宝剣返納の大役を任されたのは。
任命したのはアインに一目置いている国王ではない。その国王もまた病に伏せり、政治の舞台に再び立てるのか怪しい状態だった。任命したのは、国王直々に任命したということになっている大臣だ。『ということになっている』というのは仲の良かった同期の役人、ベイル・アルディーニの意見だ。
「あれだけアインを重用してたのに、自分の代理は任せないってのも妙な話だよな。流石に荷が重いと判断されたのかもしれねーが、多分あのヒゲ大臣が勝手に国王代理を名乗ってるんじゃねえの?」
国王の渡海遠征の話に感化され、海を渡る旅に出る為に国を出る直前、ベイルが言った言葉だ。
偶然なのか、彼は疫病の最中に職を辞して国を出たので、周囲から見れば亡命したような形になっているが、それによる批判を気にする様子は見受けられなかった。
彼からの視点でしか無いが、国家の重鎮達の中では、アインを疎ましく思う者が大半だったらしい。アメリアには言っていないが、宝剣返納の任務というのはアインを体よく国から追い出す為のものだったわけである。
「……サラは、まだ生きているだろうか」
最愛の妹の名を呟く。サラ・ハーコートの看病は隣人達が進んで引き受けてくれはしたが、既に衰弱死している可能性は有る。早く戻って確認したいとは時折思うが、今戻ってもどうにもならない。また宝剣の被害者を増やすだけだ。
「大丈夫よ」
突然アメリアが呟く。驚いて、アインは目を開いたが、アメリアがまだ起きている様子は無い。寝言だった。
「……そうだな。きっと、大丈夫だ」
アインはそっと腿の上に在るアメリアの頭を撫で、再び目を閉じた。
今出来ることをやろう。アインはそう心に留める。ここで死ぬわけにはいかないし、何よりもあの宝剣を取り返さなくてはならない。呪いの魔獣をここに残していくことは、アインには出来ない。
祖国や妹の現状が気にかかるが、今は立ち止まっている場合では無いのだ。
「……なんでお前達は、そんなに仲良く寝ているんだ?」
小声ながらもしっかり認識できた、ジルの不機嫌そうな声が、アインを眠りから覚ました。
状況を確認する。アメリアはまだアインの膝枕で眠っている。それを見たベイルが、ジトッとした目をして牢の前に立っていた。その手には、鉛色の鍵が握られている。
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