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「ヘイムの部屋は最上階、四階に在る。そこまで一気に移動するぞ」
角を曲がり、見えた階段へと歩きながらジルが言う。アインは少し不安になった。
「ジル。作戦がアバウト過ぎないか? 夜だから、見張りや見回りの兵がいるだろう」
「大丈夫だ。言っただろう、下準備は既に出来ているんだ」
ジルはやけに自信ありげな風で言う。階段を上っていく背中に解けない不安を感じながら、アイン達はついていく。
地下階層を出て、アインは顔をひきつらせた。すぐ近くに、不安の種であった兵士が二人もいたのである。
しかし、彼等はアイン達を見ると、引き締まった顔のまま敬礼した。
「……どういうことだ?」
「今、外で農民達による大規模な暴動が起きている。城の中に残っている兵士はその鎮圧命令に背いた奴らというわけだが、彼等は全員こちらの味方だ」
「全員か」
「貴族への好待遇はヘイムが支配者となっても残ったが、兵士への待遇はかなりの冷遇と成った。だから、忠誠心など持たない兵士の方が多い」
再び歩き出したジルがそんなことを言う。ジルの両隣に立って共に行く兵士は、二人とも頷いていた。
「ジルさん。一つ訊きたいんだけど、事実上の支配者になったヘイムは何をしたの?」
アメリアが質問する。ジルが自分にとって有益なように国を動かしたことはなんとなく把握できているが、具体的に何をしたのかを聞いていない。
「表向き、民への施しとしては悪くなかった。この二年でやった大きな政策といえば……道の整備、商業の推進だな。支援する為の金を出して、国内の活動を活性化させようとした」
「ちょっと待って。ここに来るまでに街を少し見たけど、活気が無いように見えた」
「みんな、極力外に出ないんだ。奴隷狩りや強盗・強姦に遭う可能性が高い」
「あ……」
アメリアは黙ってしまった。さらわれかけた時のことを思い出してしまったのだろう。
「そうか……兵士の待遇が悪くなった為に、兵士の質が落ちたのか」
「その通り。犯罪の検挙率が低下した上に、兵士による凶行も増えた」
「その兵士による凶行の所為でここに来たようなものだが」
「それは聞いています、ディン・オルディアですね。同胞の悪事、残念に思います」
アメリアの隣にいた兵士が口を開いた。どうやら、ディン・オルディアというのがあの男の名前だったらしい。
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