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「私は、支配者の座に興味はない。ただ、あなたはそこを降りてもらうわ」
ジルの言葉にアメリアが続く。前に立つ彼女の肩に、アインは優しく手を置いた。
「その通りだ、ヘイム・フロウドリィ。お前は支配者となるには横暴すぎる」
「そんなことをあなたに言われる理由は無いですね、アイザック・ハーコート」
最初こそ驚いていたヘイムだったが、すぐに余裕を持った、昼に話したとき同様の、悠然と構えた対応をするようになっていた。
「……アイン?」
自然と、アメリアの肩に込める力が強くなっていた。不審に思ったアメリアが、アインの方を見やる。
何か、信頼できる策がヘイムには、少なくとも一つは有るということだ。一番怪しいのは、影のような男――シルエットからして、恐らく男――である。
アインはアメリアの前に移動し、半身で彼女を隠すように立つ。
「暴動を起こしている民は、私の革命に賛同してくれた者達だ。つまり、それだけの人数がお前の引退を望んでいる。それから、今この城内に残っている兵士達も同じだ」
「暴動。暴動ですか。蛮力を振るえば要求が通ると思っている辺り、いかにも愚かな庶民らしい」
「なっ……」
まるで書の記述を暗誦するかのように、大した感情を込めない声でヘイムは民を見下した。ジルは、無意識といった感じで右足が前に出る。
「恥じることはありません、それが一般人の本質であり、利用できる価値でもあります。私のような貴族とは違うのですよ」
「ぐっ……ふざけるな! 人の価値を、お前のような非道が語るな!」
その瞬間。影が動いた。あの、黒装束で全身を隠している男だ。
突然の出来事で誰も反応できないうちに、影はジルの前に立ち、そして、
銀色に光る刃を、ジルの胸に叩き込んだ。
「……え……?」
理解できない、といった感じで呆然とするジル。影はするりとナイフを抜くと、ジルの首に手を添えて、素早く床に倒した。
「がっ……!」
「私があの愚かな先王を倒し、自分への革命を危惧していないと思いましたか? 残念ながら、私はちゃんと備えていました」
「くそっ……用心棒か」
「ずっといたのに、その危険性を勘定しなかったようですね。だからあなたは、所詮平民上がりの議事構成員でしかないのですよ。ああ、いや……反乱分子でもありましたね」
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