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ヘイムはレイピアを手に取ると、ゆらりと静かに動いてジルの前に立った。
「ジルさん!」
「駄目だ、アメリア!」
アインはジルを助けようとするアメリアを止めた。ジル、ヘイムとアイン達の間には、あの影がいる。助けようとしても、自分もやられてしまうだけだ。
「ふふふ、さようなら」
アイン達が駆けつけられないまま、ヘイムは、ジルの喉に何度もレイピアを突き立てた。そのたびに赤い血が飛び散り、ジルが呻き声を上げる。
しかし、それを最期までただ見ていることさえできなかった。あの陰が、再びアイン達に近づいてきたのだ。
牢に入るとき奪われた剣は、そのまま置いてきてしまった。ジルが落とした剣を拾うには距離が有るし、背後にいる兵士から剣を借りて応戦する余裕もない。
「……これを使うしかない、か……」
「アイン……」
宝剣を鞘ごと手にとり、アインは迎撃の準備に入る。アメリアは少し離れ、兵士のもとに行く。
そこで、アメリアは腕を掴まれた。
「え?」
黒装束の男から目が離せないアインには、何も見えていない。背後でアメリアが発した疑問符と、誰かが抜いた剣の音が聞こえるだけだ。
「アメリア、何が起こって」
「左に飛んで!」
アメリアから指示が飛んできた。理由は分からないが半ば反射的な動作で左に大きくステップを踏む。その直後、殺意を持った鉄がアインの肩を掠めた。
「なっ――」
「何をする、ボル! 何故今、我らの仲間を斬ろうとした!」
アインの背後から、二回目の剣を抜く音と同時に兵士の怒声が響いた。どうやら、今アインに刃を向けたのは、ここまで一度も言葉を発しなかった方の兵士らしい。
「いいんだよ、俺はずっと前にジルの野郎のことをヘイム様に密告していた。つまり、お前らの敵だ」
ボルと呼ばれた男は、楽しそうに口を開いた。もう一人の兵士だろう、足音が短い感覚で聞こえ、アインと声の間で止まった。
「貴様……この方々は、ジルが最後の仲間として選んだ大切な人だ! 民を思い、自己の犠牲も厭わぬジルを裏切るとは……恥を知れ!」
「裏切ったのはあなた達ですよ。本来、あなた達兵士……ああ、それからジルも、私の味方であるべき存在です」
ヘイムがボルの横に立ち、アメリアの腕を捻りあげる。アメリアの顔が苦悶に歪んだ。
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