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民主国家・レヴォルツィオーン。
かつて、シュアメーゲン同様の貴族を優遇した政策をとっていたが、ある時民による反乱が起こった。
貴族の中にいた内通者の仕事も有って反乱軍は見事に城の制圧を成功させ、王族ベルナード家を国外へ追放した。
それ以来、民主主義を掲げて、民意を反映した政治が展開されているという。
「……アイム」
兵士達に乗せられた幌馬車の中で、アインはアメリアの本名を呼ぶ。しかし、彼女は全く反応しない。
「……アイム・ベルナード」
「……アメリアって呼んで」
もう一度呼びかけると、今度は頭を軽く振りながら、アメリアはようやく応えた。なんとなく、機嫌が悪そうである。
「分かった。ではアメリア、いくつかの質問だ。まず、お前が王族だったという話は、本当か?」
アメリアはアインの目を見る。それから、首を縦に振って認めた。
「何故黙っていた?」
「訊かれなかったことに答える義理は無いわ」
アメリアがそっぽを向き、言う。
「そうか」
「……かつての支配者が、奴隷として支配される側の人間になってたのよ? 嘲笑を受けるのが、怖かった」
「……そうか」
視線を合わせないまま、アメリアが本音を語る。アインはなるべく平静を装って、ただ受け入れた。
嘲笑。ヘイムと呼ばれた男は、アインに対しては丁寧な対応をしていたにも関わらず、アメリアがベルナード家の者と分かった瞬間、顔の傷痕と併せて彼女の現状をわらった。それこそが、アメリアの恐れていた事態なのだろう。
他人の不幸は密の味、ということだ。
「把握した、そのことについてはもう訊かないでおこう。次の質問だ、あのヘイムという男とはどういう関係だ?」
自分の正面で膝を抱えて座るアメリアに、アインは二つ目の質問を提示する。
「それもあまり訊かれたくないことだけど、まぁいいわ。ヘイム・フロウドリィはレヴォルツィオーンでは有力な貴族の一人よ」
アメリアは、コルトが結った三つ編みの先を弄りながら喋りだした。
ちなみに、コルトはあの後仕事に向かった。薄情にも思えるが、彼女の仕事の性質上、下手に介入すると彼女自身が捕まることになりかねないので、当然の判断だった。
「あいつは、その身分に在りながら、国民の反乱に加担した。確かに私の父が行う政治は酷いものだったけど、その父にやたらと媚びていたあいつがそんなことをするなんて、誰も思わなかった」
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