革命の国

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「媚びていた……? 手のひらを返したということか」  アメリアは頷く。アインの人生経験からして、ヘイムの周囲からの評価は極端な二種のどちらかであると予想された。  予想その一、遠慮なく人を陥れ、内外から反感を買う人間。  予想その二は、出世のために、外側から見えない場所のみで人を蹴落とし、汚名を得ることなく大衆の支持を得る人間だ。  当然後者の方がより悪質で、アメリアから見たヘイムはまさにこの後者であるようだ。 「今なら多分、理由が分かる……あいつは野心家、目的のために手段を選ばない。理想を達成する為には無理を通すことも厭わない男よ」 「理想の為に、無理を通す……どうした?」  言われたことを繰り返していると、アインはあることに気づいた。アメリアが、小刻みに震えているのだ。しかし、今までに何度か見た、恐怖に彩られた顔ではない。顔を赤く染め上げ、険しい目つきで……そう、羞恥か憤怒故の震えのようだった。 「アイン……あいつは、最低の男よ」 「まぁ、ここまで聞いて、そんな感じはしていたが……」 「あいつはね……私を自分の物にする為に私の父を裏切ったのよ」 「………!」  アインは絶句した。やることが大掛かり過ぎて、理解できない。  アメリアを自分の手中に収める。その為だけに、ヘイムは王を裏切り、貴族を裏切り、民衆の前に立ったのか。 「私達王家の者が追放されることが決まった日の夜、私の部屋にヘイムが訪れたの」 「………」 「恥ずかしげも無く、堂々と言っていたわ。『私の女になれば、君だけは助けてやることができる』……あの少女趣味、勿論断ってやったわ」 「私の場合は誤解だが、同じ少女趣味で表現されると気分が悪いな……」  アインはそれだけ言う。アメリアは『少女趣味』という言葉の使い方を改める気は無いようだが、ヘイムには辛うじて当てはまるのかもしれない。人が全て思い通りに動くと、思い上がった幻想を持っているようなのだから。 「目的のために手段を選ばない、か……ん?」  アインは、大事なことに気づいた。自分が今、幌馬車に揺られているのは何の為だったか。国からの取り調べに応じる為だ。しかし、相手は平気で無理を通すというヘイムであり、こちらにはアメリアがいる。これが何を意味するのか。 「アメリア……」 「どうしたの?」  不安が声に出ていたのだろうか、アメリアが心配そうに視線を向けてくる。
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