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「俺は、人質ということになるのかもしれない」
「……そうね」
短く肯定された。アメリアも分かっているようだった。
ヘイムが今尚アイム・ベルナードを手に入れようとしているのならば、この機を逃す理由は無いだろう。「私のものとなれば、彼の罪は無かったことにしよう」等と言ってくるはずだ。
「アメリア……すまない」
「謝らないでよ。絶対、私がどうにかするわ」
アメリアは強気に言ったが、果たしてどうにかできるのだろうかと思ってしまう。相手は貴族であり、一応の扱いとしては民を助けた救世主だろう。それに対して、今のアメリアは一介の旅人、過去の身分に縋ったところで追放された王の娘でしかない。影響力の差は明白だった。
つまり、とアインは考える。この問題を打破するには、ヘイムの敵、自分達の味方が必要だ。
「アメリア。私は宮廷内での行動が制限されるだろう。私の代わりに、協力者を探してくれないか」
アインは話を騎手や周囲の護衛兵に聞かれないよう、アメリアの耳元まで寄って囁く。全て聴き終わると、アメリアは一度だけ大きく頷いた。
それと同時に、馬車が止まる。話が外に漏れたのかと、アインは素早く剣に手をかける。しかし、外を一瞥したアメリアが首を振った。
「大丈夫、門の下が混んでいたから止まっただけ。町に入ったわ――首都・ベルナードに」
アメリアが、都市の名を告げる。自分の姓と同じその名を。
かつてはその名前がベルナード家が持つ権力の証だったのだろうが、今では何の意味も持たない。むしろ、過去の圧政を示す戒めになっているのかもしれない。
馬車が、動き始める。道が整備されているからだろう、入る前よりも揺れが小さくなった。
「……あれ?」
アインが車輪の音を聞きながら目を閉じていると、アメリアが突然疑問符を発した。顔を上げると、彼女は町を眺めている。
「どうした?」
「いや……不本意だけど、父のやっていたことが『圧政』だったなら、私達が追放されれば生活は良くなるものでしょう?」
「まぁ、そうなるだろう。残念ながら」
「でも……この町、なんだか活気が無い」
そう言われて、アインも流れていく町を観察する。そして、確かにそうだと思った。
門から通じているということは、ここはメインストリートのはずだ。それなのに、静かすぎる。人影がまばらで、アインに旅立つ直前の祖国、病魔に襲われた国を思い出させた。
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