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「なるほど。確かにこれは、少し不自然だ」
アインが腕を組んで言う。祭の日ならば賑やかだ、というような話はしばしば聞くが、この通りの静けさは平日にしても少々不気味な程である。
「……何なんだこの国は」
「分からない。分からないけど、何かまた問題が発生しているみたいね」
アメリアが目を細くする。他に気になるものを探しているのだろう。
しかし、その後アメリアが疑問符を造ること無く、幌馬車はベルナード中央の城についてしまった。仕方なく、二人並んで荷台を降りる。
「生きて帰るのは当然。なるべく早くここを出ましょう」
アメリアが小声で言う。アインはそれに返事することも無く、ただ堂々と歩いていた。
*****
「なっ……きゃあっ!」
いきなり後ろから突き飛ばされ、アメリアは牢の中で転んでしまった。その直後、格子戸の閉まる不快な音。
「しばらく、その部屋で待っていてください。時間を見て、尋問を行いますので」
「ヘイム・フロウドリィ……疑いをかけられている私は構わないが、何故アメリアまで同じ目に遭わせる?」
言葉こそ穏やかだが、アインは怒っていた。格子の壁を一枚はさんだ牢の外にいるヘイムを、静かに睨む。ヘイムは動ぜず、冷たい笑みを浮かべた。
「必要ですからね。アイムには、今の自分の立場を分かってもらわないと」
「今の私の、立場? どういうことよ」
牢の中からアメリアの声が飛ぶ。このままここに留置されると、協力者を探す為の調査が出来ない。それは非常にまずい事態だった。
「決まっているでしょう? 今、あなたは一介の庶民に過ぎないということですよ」
「………」
「今のあなたは無力です。追放される前も、まぁ王族の娘でしたので、あなた自身に大した権力が有ったわけでは有りませんが、今はそれすらない。あなたの命は、既に私が握っていると言ってもいいでしょう」
「……権力なんかに頼らなくても」
「あなたには、この格子戸を開けさせる力もない……あなたは顔に傷がついたが、それでも尚美しい。素直にしていれば、私の召使いにでもしてあげましょう」
言われ放題だった。何とか返そうとした言葉も、すぐさま粉砕される。アメリアは俯き、ただ屈辱に耐えるしかなかった。
「まぁ、おとなしく待っていてください。あなたの出方次第では、そちらの剣士も救えるかもしれませんよ?」
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