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「そんな必要ありません。貴方は私を監視する役目。考え無しの私が悪かったんです。」
「いえ、ですから私は監視している訳では…!」
部屋に入る寸前、渇いた言葉を吐いて私は耳を閉ざした。
どんな言い訳も聴きたくなかった。
久遠さんはどうして、会話もままならない程忙しいのか。
仕事を理由に放置されてるようで…苦しさばかりが募る。
…大事だって、言ったくせに…
表向き借金のカタに招かれた婚約者であっても、本当は私との過去があって再会を望んでいたのは久遠さんだった筈なのに、これじゃ一大ブームの去った玩具や一発芸人と同じ扱いだ。
もしかして、カモフラージュの婚約者が欲しいが為に昔を引き合いに出して利用されてるだけ?
…これって、騙されてるのかな…
借り物のベッドに無言でダイヴ。
何度か軽く跳ねてからの適度な沈み具合は、気持ちとは裏腹に心地良い。
考えてはいけないのに、眼を閉じれば浮かぶ別の女の影。
不安は渦巻いて蓄積されて、その日は眠れぬ夜を過ごし…
明け方近く、ついに爆発した。
もう、言いなりになんかならない。
待つのもやめる。
同じ籠の中で飼われるならばいっそ、私は私の思うまま生きよう。
自暴自棄とも取れる決意が、極道の世界でどれ程危険で浅はかだったか思い知らされるのは、密かにマンションを抜け出し緊張感から解き放たれた後のことだった。
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