第1話

4/5
前へ
/5ページ
次へ
「ちょっと~、もう、どうしてこんなに寒いのよぉ………」 階段の方から声が聞こえてきた。 姉貴だ。姉貴もきっと寒くて起きたんだろう。普段、土曜日は学校もバイトもないから起きてくるのはお昼頃だ。 姉弟そろって寒さに起こされるとは…、恥ずかしい。 「あー、リビングあったかい~。助かるわぁ、ありがとね淘汰」 「ん……」 2階から降りてきた姉貴は俺以上に防寒していた。毛布だけでなく、ルームソックスにマフラー、手ぶくろまで。 「真央、ここ室内。それとも今まで外で寝てた?」 からかうとキッと俺の方を睨んで 「禿げろ」 と、一言吐き捨てた。 …いや、意味わからねぇし。 俺ら、宮内姉弟は仲が悪いわけではない。だがいいとも言えない。大きなケンカはしないが、くだらない口ゲンカが絶えない、そんな感じ。 「ちょっと淘汰!!」 「今度は何?」 「アンタ、勝手に私のココア飲んだわね!もう少ししか残ってないじゃない!」 そんなはずはない。俺は1杯分しか作ってないからだ。ココアはまだ残っていた。……多分。 「まだ真央が飲む分は残ってんだろ?」 「淘汰、私が1日に何杯ココア飲んでるか知ってる?……5杯よ!」 そうですか。 「これじゃあギリギリ5杯作れないわ、ココアを5杯飲まなきゃ私の1日は終わらないのよ!永遠に!」 面倒くせぇ…… 「ってことでおつかい頼むわ。ついでに朝ごはんも買ってきて」 「ちょ……」 言おうとした時には俺の目の前に千円札が突き出されていた。 コイツ、最初から…… 「お前が禿げろバーカ!」 勢いに任せて口から言葉を発していた。気づいた時にはもう、後の祭り。直後、左頬に激痛が走った。 「つべこべ言ってないでさっさと買ってきなさい!!!」 一見、ただの理不尽な命令に聞こえるだろうが、俺は、姉貴のこの一言に心から感謝することになる。 そんなことは知る余地もなく、俺は渋々買い物に行く支度をした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加