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「ちょっと~、もう、どうしてこんなに寒いのよぉ………」
階段の方から声が聞こえてきた。
姉貴だ。姉貴もきっと寒くて起きたんだろう。普段、土曜日は学校もバイトもないから起きてくるのはお昼頃だ。
姉弟そろって寒さに起こされるとは…、恥ずかしい。
「あー、リビングあったかい~。助かるわぁ、ありがとね淘汰」
「ん……」
2階から降りてきた姉貴は俺以上に防寒していた。毛布だけでなく、ルームソックスにマフラー、手ぶくろまで。
「真央、ここ室内。それとも今まで外で寝てた?」
からかうとキッと俺の方を睨んで
「禿げろ」
と、一言吐き捨てた。
…いや、意味わからねぇし。
俺ら、宮内姉弟は仲が悪いわけではない。だがいいとも言えない。大きなケンカはしないが、くだらない口ゲンカが絶えない、そんな感じ。
「ちょっと淘汰!!」
「今度は何?」
「アンタ、勝手に私のココア飲んだわね!もう少ししか残ってないじゃない!」
そんなはずはない。俺は1杯分しか作ってないからだ。ココアはまだ残っていた。……多分。
「まだ真央が飲む分は残ってんだろ?」
「淘汰、私が1日に何杯ココア飲んでるか知ってる?……5杯よ!」
そうですか。
「これじゃあギリギリ5杯作れないわ、ココアを5杯飲まなきゃ私の1日は終わらないのよ!永遠に!」
面倒くせぇ……
「ってことでおつかい頼むわ。ついでに朝ごはんも買ってきて」
「ちょ……」
言おうとした時には俺の目の前に千円札が突き出されていた。
コイツ、最初から……
「お前が禿げろバーカ!」
勢いに任せて口から言葉を発していた。気づいた時にはもう、後の祭り。直後、左頬に激痛が走った。
「つべこべ言ってないでさっさと買ってきなさい!!!」
一見、ただの理不尽な命令に聞こえるだろうが、俺は、姉貴のこの一言に心から感謝することになる。
そんなことは知る余地もなく、俺は渋々買い物に行く支度をした。
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