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彼の腕によって強く縛られていた私は、
次第に白い世界へ堕ちていっていた。
しばらくして、目を覚ました頃には、
時計の短針は10を。長針は12を。
朝なのだろうか。夜なのだろうか。
意識を飛ばしていた間が、あまりにも長く感じた私にはわからなかった。
ベッドに横になりながら、ふと壁にかけられた時計を自然に確認をしていたが。
あれから…どうなったんだっけ。
寝起きで、まだよく働かない頭を使い必死に考える。
うーっと唸るほどに考えていると、肩に何か温もりがあることに気付き…
「なな。起きた?」
見れば、私を腕枕し
心配そうに顔を覗いてくる蒼甫の姿が隣にあった。
コクッと頷けば、優しく頭を撫でられ。
なんで、まだいるのだろう。とか訊きたいことはたくさんあったけれど
何が彼の逆鱗に触れるか分からない恐怖から開きかけた口を閉じた。
へたに話しかければ、さっきのようなことが再びあるかもしれない。
「ごめんな。抑えらんなかった。」
眉を八の字に下げ、申し訳なさそうに謝る彼を見て
私は無言で、ただ彼を見つめた。
言い返す言葉も見つからなくて。
”大丈夫だよ。”とか”気にしないで。”とかいうのも違う気がして。
すると、彼は大きな掌で私の首をそっと撫で
「少し痕も、残ちゃったしな。」
哀しげにそんな風に謝る彼は、どこか淋しげな瞳をしていた。
彼の心を温めてあげたくなるような。
けれど、その務めをするべきなのは・・・私じゃない。
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