第1話

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さすがに予想はつく。 多分。あ、ほらね。 会社の出入口の近くでスーツのポケットに手を突っ込んで窓を見ている唯の姿。 待ち合わせは駅前の本屋じゃなかっただろうかと、ふと疑問に思ったのだが、ガラス張りのビルの出入り口を見ると外はパラパラと雨が降っていた。 「駅前の本屋」とは、私のアパートの最寄り駅の本屋のことで、私達は仕事帰りに会社近くで、待ち合わせなんてしたことはない。 ほとんど会社で会うことはないし、たまたま顔を合わせても話をしたりはしない。 取り合えず知らないフリをして出口に向かい、自動ドアまで辿り着く。 しかしドアが開いた瞬間に、私の耳に届いたのは唯の声。 「気付いてんだろ?シカトすんなよ」 まさか私に話しかけているとは思わず、知らん顔をして自動ドアに足を一歩踏み出した。 「おーい。すみれー?」 一瞬、耳が聞こえないようになった感覚で、ハッと気付けば周りの人々のガヤガヤとした声が響く。
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