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黒軍の方はどうやら奇襲をしかけられ体制が崩れたようだった。今回は戦いより撤退を優先すべきだと考えたユーシアは一番の危険人物由羅に向かってチャクラムを投擲する。由羅はそれに素早く反応すると弾き、そして口の端を吊り上げ破顔した。この投擲は撃破のためではなく牽制のためだ。弾かれる前提ではあった。しかしここまで露骨にこちらに対して凶悪な笑みを向けられるとは思ってもみなかったユーシアは一瞬全力で撃破しに行くべきだったと後悔する。しかしそんなことは後の祭りだ。既に由羅は剣を構えこちらに向かって来ている。
「そうそう!そう来なくっちゃ!」
由羅は叫びながら剣を振り下ろす。ユーシアはそれを左手に持ったチャクラムで受けると右手のチャクラムを由羅の腹部目掛けて横に薙ぐ。しかしその時には由羅は後退していてうまく躱される。相変わらず由羅は楽しそうな表情であるがユーシアの方にはすでに焦りが滲んでいた。
「黒軍!全員撤退準備!」
ユーシアは由羅が少し距離をとった隙をついて叫ぶ。それを聞いた新は狐と共に皆を先導し、敵を牽制しつつ撤退し始める。しかし人数差で押されたが故に怪我人も多い。思うように撤退は進まない。ユーシアは由羅に釘付けにされていて助けには行けない。このままでは黒軍はやがて全滅してしまうと考えたユーシアは左手に持ったチャクラムを白軍が密集している辺りに思いっきり投擲した。
「しまったっ!」
由羅はチャクラムの方を失敗したというように振り返る。ユーシアはその隙を逃すことなく由羅の鳩尾に肘鉄を入れて動けなくさせる。先ほどユーシアの投擲したチャクラムは白軍の兵に当たることは無かったようだが白軍の統率を乱すには十分だった。何にも当たらなかったチャクラムはブーメランのように弧を描きユーシアの手に収まる。ユーシアは白軍との距離を一気に詰め今度は狙いを定めてチャクラムを投げる。狙いは白軍の一人が持つサーベル。しかしチャクラムはサーベルに当たることなく二つの銃声によって撃ち落とされた。銃声の方向を振り返るとそこには昼間に会った赤色のマフラーを付けた少女が2丁拳銃を構えて立っていた。
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