プロローグ

3/3
前へ
/8ページ
次へ
 私にはとってもとぉっても可愛い弟がいる。我が弟ながら賢くて優しくまるで天使のような愛らしい弟。いつも控えめな笑顔を浮かべ、私を癒してくれるこの世で一番愛している子。  愛らしい私の弟と私はあまり似ていない。とっても残念なことに。私は金髪であるのに対し弟は深淵を思わせる神秘的な黒髪。私は天才魔法使いだが身に有する魔力の量は弟には到底敵わない。しかし、その膨大すぎる魔力は弟の体を蝕んでいる。満足に外で運動することさえ許してはくれない。そのせいで何も知らない有象無象どもにおちこぼれなどと呼ばれていて。本当、むかつくわ。  少し前までは魔力を有することによって身体に影響が出るなど考えられないことだった。魔法とは天から与えられた贈り物でありそれが常識。つまり、せっかく膨大な魔力を有しているというのにそれを扱うことのできない弟が悪く、どうしようもないおちこぼれなのであると。  しかし、私の聡明な弟はその理不尽ともいうべき現状を自分でどうにかしようと考えた。何故魔力を扱うことができず、体も弱いのか(体が弱い原因は不明だった)。僅か10歳という若さで色々と調べあげ研究し、そして魔力が身体に与える影響を発見したのだ。その発見は魔法界を揺るがすもので、今までの常識に喧嘩を売るようなものだった。天から与えられた偉大なる魔力が人体に影響を、しかも悪影響を与えるだなんてありえない、と。  まあ、そこは賢い弟でうまい具合に既存の観念を壊さないように説明し、今では肯定派と否定派で熱い議論がかわされている。確かに宗教に喧嘩を売る内容ではあったが、決して自らを擁護するだけの内容ではない。あくまで客観的な立場から論じたものだ。  それなのにいつまでもぐちぐちと難癖をつけてくるあの老害どもや調子付く餓鬼どもせいで弟をおちこぼれ扱いする奴らがいて本当に地獄を見せてやりたいと常々思う。  おっと失礼。まあ、つまりは私の弟は可愛くて優しくて天才で理不尽な状況にも懸命に立ち向かうすばらしい弟であるということよ。私の弟として生まれてきてくれたことに初めて神様とやらに感謝したわ。  私は弟が幸せだと言ってくれる日々をずっと守ってみせる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加