14人が本棚に入れています
本棚に追加
天才魔法使い一之宮紫の一日は、愛する弟の声によって始まる。
「紫姉さま、朝ですよ。起きてください」
声変わり前の耳触りのよい声に、紫は瞼を開いた。
「おはようございます。姉さま」
葉はやさしく微笑みながら紫にお茶を差し出す。紫はお礼を言いながら受け取りお茶を飲んだ。葉のいれたお茶を飲まなければ一日は始まらない。
紫がお茶を飲んでいる間に葉はメイドのユエに手伝ってもらいながら紫の服を用意する。
「今日は日差しも暖かいですし紅の簪にしました」
「葉が選んでくれたものなら間違いはないわ。ありがとう」
「ではまた朝食の時に」
葉は簪をユエに渡し、一礼すると部屋を出ていった。
飲み終わったお茶をユエに渡し、制服に袖を通す。髪を結い、葉の選んでくれた簪をつけた。鏡を見て出来栄えを確認する。
「うん、今日もばっちりね。そうでしょ? ユエ」
「はい。ムラサキ様はいつでもお美しいです。ヨウ様の選ばれた簪もよくお似合いで」
「ふふふ。葉が選んでくれたんだもの。当然よ」
紫は上機嫌で葉の待つ食堂まで向かう。
食堂に着くと既に葉が席についていた。紫に気づくと控えていた執事のロイドに合図を出す。
紫が席につくとロイドが料理の説明を始めた。シェフのいない一之宮家では執事であるロイドが料理を作ってくれている。しかし、侮ることなかれ。ロイドの腕前はそこらの料理長に引けを取らない。メイド長であるユエはそれに追いつこうと日々ロイドから学んでいるらしい。
「葉、今日は体調どう? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。問題ありません」
葉は身体が弱い。日によってはベッドから出られないほど体調が悪いときがあるのだ。紫としてはなるべく無理をしてほしくない。
「そう、でもちょっと顔色が悪いわ。念のため今日は馬車で行きましょう。ロイド、馬車を表にまわしておいて」
「かしこまりました」
紫はロイドに指示を出すとユエに鞄を用意させる。一応葉が一之宮家の当主ではあるのだが家の中ではまるで紫のほうが当主のようだ。
「馬車の準備ができました」
ロイドの言葉で二人は玄関へと向かい、用意された場所に乗り込む。
「レックス、お嬢様たちを頼みますよ」
「がってん承知っす! おいらはいつだって安全運転っすよ」
従者のレックスはいつも通りの元気な声で答える。
最初のコメントを投稿しよう!