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家から学園までは馬車で10分ほどの距離にある。歩いて行ってもあまり変わらない距離で、二人で話しているとあっという間に到着する。
馬車は学園の大きな門の前で停まった。個人の馬車はここまでしか入れない。
「レックス、ありがとう。帰りはまた連絡するわ」
「いえいえ。おいらの幸せはおじょー様たちの幸せっすから」
今日もよいがっこー生活を、と言いながらレックスは馬車を走らせた。
見送った紫と葉は校舎へ向かって歩き出す。
「ムラサキ! ヨウ!」
声のほうを振り返ると明るい赤髪の少女が手を振って歩いてきた。
「おはよう、リディア」
「おはようございます。リディアさん」
「おっはー。相変わらずムラサキはきらきらしててヨウはちっちゃいねえ」
リディアの悪気ない言葉にヨウは苦笑いを返すしかなかったが、
「俺だって大きくなりますもん」
「ん? なに? ヨウ」
「…なんでもありません」
密かに同年代に比べて小さいことがコンプレックスである葉は小さく言い返す。しかしリディアには通じなかった。都合の悪いことは聞こえない都合のよい耳をしているのだ。
「リディアがこんなに早く登校するなんて今日は雪でも降るのかしら」
「んにゃ!? ひどいよムラサキ! 私だって頑張れば起きれるよ」
普段はお昼までずっと寝ている遅刻魔のリディアが今日は朝から登校していることに紫と葉は驚いた。足りない単位は成績で補っている教師からしたら面倒くさい生徒なのだ。
「姉さん、さすがのリディアさんだって雨を降らすぐらいだよ。今は夏前だから雪は無理だって」
「ヨウもさりげにひどい!!」
リディアは若干涙目になりながら二人を見返す。この姉弟は意外と人をおちょくるのが好きなのだ。一見そんなことを言わなさそうに見える葉も姉の紫には乗っかってしまうので二人そろうと性質が悪い。
「うう。たまに早起きしたらこうだよ。ひどいよ」
がっくりとうなだれながらムラサキの隣に並ぶ。感情表現が素直な彼女は非常にいじりがいのある相手だった。
「でも本当に今日は何か起きるんですかね? 昨日徹夜してたリディアさんが朝から登校、なんて」
「うん。それは私もびっくりなんだよねえ。なんかこう、ぱちって目が覚めたのよ」
「…嫌な予感がするわ」
そしてこういう時の紫の予感は当たるものなのである。
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