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元来、群れたりするのが苦手な僕は、同窓会の案内などさして気にも止めず捨てていたことだろう。
それが何故か、届いたハガキを無視する気になれず、参加に丸をつけて投函していた。
虫の知らせ、というやつだったのかも知れない。
「数馬さぁ、一年先輩の幸田美緒ってのと付き合ってたろ? 卒業と同時に振られたってやつ。その人さぁ、先月、病気で亡くなったらしいぜ」
比較的親しくしていた元クラスメイトの津波から知らされた訃報に、一瞬、居酒屋の喧騒が遠退いた。
「何の病気?」と尋ねても、相手は「さぁ?」と首を傾げるだけだった。
華やかな色を押し隠した、もの寂しいだけの桜の枝を見上げた横顔が思い出される。
小さな唇が微かに動いて、言葉を紡いでいた。
何と言っていたのか、明確に思い出せない。
もどかしさとともに、思い出さなければならないと警告にも似た焦りが押し寄せ、懸命に記憶を手繰り寄せる。
その甲斐あってか、薄靄がかった思い出が透き通り始めた。
『どうせいつか死ぬのに、生き物はどうして生まれてくるのかな。桜だってどうせ散るのに、どうして毎年毎年咲くのかな』
そう言って美緒は僕を見ると、散り際の桜みたいな儚さで微笑んだ。
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