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美緒は卒業のあと程なくして、家族と共に県外へ引っ越していった。
学年の違う僕には、なおさら彼女と繋がる糸は途絶えたに等しかった。
ただ、美緒の訃報を教えてくれた津波は社交的な性格から人脈が広く、人伝に情報が入ってきたらしい。
彼に頭を下げ、美緒の詳細を調べてくれるよう懇願するしかなかった。
日付が変わった頃、津波から連絡が入った。
「今の幸田先輩ン家、分かったぜ。俺も一緒に行く。後輩として、線香くらいあげたいから。詳しくは明日話すってことで」
その申し出を断る理由もなく、翌日、男二人の長いドライブへと突入することになった。
「元カノの死って、やっぱりショック?」
助手席の津波に頷いて返す。
「まあ、それなりに」
「そうだよなぁ。それに、俺らの一個、上だろ? まだ、二十一じゃん。早すぎるよなぁ」
僕は目配せで賛同を表すと、聞きたくて仕方なかった質問をした。
「何の病気だったの?」
「癌だったらしい」
「……そう」
「高校在学中には発病してたらしいよ。でも、もう少しで卒業だから、それを待って本格的な闘病生活に入ったみたい。お前、知らなかったろ? 幸田先輩、担任の先生以外、誰にも言わなかったんだよ」
だから気にするなとでも続くような口振りだ。
津波の気遣いに心揺れて、ホロリと不安を漏らしてしまった。
「もしかして、美緒は僕に辛い思いをさせないためにとか、考えてしまうんだ」
「その可能性もあるけど、実際、本人にしか分からない葛藤や決断があったんじゃね?一概に、そんなドラマじみた綺麗事と決める必要なくね?」
「……お前、ドライね」
「ドライっつーか、ちょっとムカついてる。あとになって事情を聞かされた人間の気持ち、幸田先輩、全く無視してさ。自分のことで手一杯すぎるにも程があるだろ」
歯に衣着せぬ物言いに、逆に気が楽になり頬が緩んだ。
「それ、美緒の家族の前で言うなよ」
「言うかよ、バーカ。それくらいはわきまえてるって。お前みたいに三流大学行ってプラプラ遊んでねーもん、俺。社会人の先輩だぞ。敬え」
「だったら、車くらい買えよ」
「はぁっ!? 親に車買ってもらうような苦労知らずが何言うか!ふざけんな! 今度、貸して下さい!」
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