第1話

15/36
前へ
/36ページ
次へ
ハイヒールの踵を鳴らしながらオフィスの廊下を歩く。 コツコツという規則正しい音が心地よくて、ざわついた心が落ち着いていくような錯覚に陥る。 前だけを見たまま足を止めずに、小さくため息を吐いた。 ……わかってる。 本当は、気付いてるよ。 けど、蓋をしないといけない。 私は、弱い女にはなりたくないの。 チクリと痛む胸には気付かない振りをして、頭の中を占める考えを追い払うように、再び足音に耳を傾ける。 遠くから近付いてくる革靴の音にも、気付かない振りをして。 .
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加