スパイの女

3/5
前へ
/5ページ
次へ
 私が女性であることを最大限に生かした指令書の受け渡し、他人から見れば、店長が私に惚れてラブレターを渡したにしか見えない。まさか、それがスパイ同士の指令書の受け渡しなど夢にも思わないでしょう。  私は雑貨屋で購入した商品を持って店をあとにする。念のため、周囲に中を払うも追跡はされていないようだ。  私は普通に歩きながら頭の中で、指令書の内容を反芻した。  指令書の内容はこうだ。某国が最近、画期的な発明を試作ではあるが、完成させたそうだ。それが、如何なるモノであるかを調査してこいという。調査の結果次第で、組織に役立ちそうなモノなら奪ってこい。害になるモノなら壊せ。実にスパイらしい仕事でしょう。  私はその日の内に、指令書に書かれていた某国へと飛んだ。  元々、スパイを売り物にしている自分。某国の組織に仲間として侵入することなど実に簡単だった。  私は入念に某国の組織を調べ上げる。高性能の盗聴器を幹部の部屋に仕掛けたり、口封じに記憶を消す薬を飲ませられた研究員の記憶を一時的に戻して発明品の話を聞いたり、それこそ、数ヶ月に渡り調査は行われた。  しかし、本部から指示された発明品は、なかなか、見つけ出すことができない。記憶を思い出せた研究員も具体的に何を創らされていたのかよく分かっていなかった。幹部の中には、発明品、そのものに疑問を抱いている者すらいた。  要するに某国の組織。その殆どの人材が発明品についての詳細を知らないようだ。私が達成できた事といえば、その発明に関与したと思われる若い男性との接触ぐらいだ。  極東の島国の諺(ことわざ)など古風な言葉が好きな若者は、いつも冗談交じりの会話で私を楽しませてくれた。私としては、そんな話よりも発明品について知りたいと思っていたが、そこはなかなか、話してくれそうにない。  お酒に特殊な薬を混ぜ、自白させようとしたけれど、向こうの方が一枚上手だったらしく、自白剤を無効化する薬を先に飲んでいた。だから、どんな薬を酒と一緒に飲ませても酔うだけで喋る気配はない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加