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看板娘であることが見世娘の本職であるのに、都季が格子前の控え間で腰を落ち着ける暇は殆ど無かったのだ。ひっきりなしに訪れる客の数が、都季の凄絶さを物語っていた。
飛ぶ鳥を落とす勢いとは、まさにこのことであろう。
しかし、そんな日々はほんの三ヶ月で終幕を閉じることとなった。
***
「先生、頼みたいことがあるんですが」
この日、都季が医院に赴いたのは未の刻(午後二時頃)を回った頃であった。
夏には草木が生い茂っていた医院の中庭は、霜枯れてどこか侘びしく感じられる。
そこから見える遠山は、白くおぼろに霞んでいた。
「久しく顔を見せたかと思えば、頼みごとですか」
医者は、火鉢にかけていた鉄瓶を取った。
都季が見えたときは、腰痛の患者に鍼(はり)を施術していたところだった。
都季を待たせている間に、私室であるこの部屋で湯を沸かしておいたのだ。
鉄瓶から湯気が上がっている。
湿り気のある暖かな空気が、肌にまとわりついた。
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