153人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい。行きたいところがあるんです」
「行きたい所とは?」
都季に熱い茶を淹れてやった。
茶杯を乗せた茶托をそっと滑らせて、都季の膝の前に寄せた。
「父さんと母さんの所です。
私はあそこに戻れませんが、父さんと母さんはひもじい生活をしています。
だから、稼いだお金を少し渡してやりたいんです」
茶はまるで眼中にない。
真意のこもった熱い眼が、医者を焦がさんばかりに見つめている。
「冷めてしまいますよ」
「そんなことはどうでもいいです」
「そう、仰らずに。
外は寒かったでしょう。温かいうちに喫しなさい」
都季は不満げに肩で息を吐いた。
茶を服す気分では無かったようだが、しぶしぶ茶杯を手に取った。
茶は、緑茶に蓮花を混ぜた、香りのよい蓮花茶である。
肌の張りが良くなると娼妓らに名高い人気を誇る茶であるが、同時に安眠出来るという鎮静効果も認められた高級茶である。
最初のコメントを投稿しよう!