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医者は、都季なら蓮花茶の香りに気付くと思っていた。高級茶を出した己の心奥(しんおう)を探ってくるかと見通していた。しかし、心が他所に向いた今の都季は、茶種に意識を寄せる気配も無かった。
「娼妓が遊廓を出るには許可証がいりますよ」
医者は静かに口を開いた。
蓮花茶だと告げるつもりは無かった。
もし、都季が私の心に気付いたなら――。
先のことを考えていなかった己が、馬鹿馬鹿しく思えたのだ。
心を打ち明けて何がしたいのか。都季には何も望んでいない。
「それは知ってます。どうすれば許可証が手に入りますか」
「難しくはないですよ。外出理由に娼家主の印を添えて、郭署に申請するんです」
郭署(かくしょ)とは、遊廓の中央付近に施設された、令外官下の役所である。
治安を維持するため、遊廓には大門の傍らに帯刀した役人の詰め所があるが、それの本拠が郭署であり、郭署では主に事務処理が行われている。
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